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「・・・何考えてるの?」 誤魔化しきれてない言葉にくすりと笑う雪男が燐は気に食わない。手をついた机ががたりと鳴った。 「あ、く・・・もぉ・・・も、どってからじゃ、駄目なのかよ・・・っ」 先ほどから何度口にしたかわからない言葉をまた口にして、燐は体をよじった。それを雪男の手がまたぐいと引き戻す。そうして雪男が口を開くと、すでに熱ではりつめた燐のそれをべろりと舐め上げた。ひぅ、と燐が小さく鳴く。 「いいけど、・・・我慢できるの?」 とっさに答えられないのが、言ってしまえば燐の答えだった。しかし雪男だって此処まで高ぶらせた上で漸く聞いてくるから、いわば確信犯の開き直りのようなものだ。だからこそ燐は悔しくてたまらない。 「エプロンっていいよね」 呆れた様子にも全く堪えた様子はない。 「ん・・・っ、く・・・ふ・・・ン、んうっ」 くぐもった声に気づいて、雪男が視線だけ上げて燐を見る。外させようかとも思ったが、何も言わずに視線を戻した。震える両手で口を押さえる真っ赤な顔は、それはそれでなかなかクるものがある。 「んっふ・・・ん・・・っ」 邪魔になる食器を空いた左手でよけ、しがみついてくる体をゆっくりと押し倒したところで、雪男ははたと気づく。 「ゆ、きお・・・?」 動きをとめた雪男に燐も気づいて、あがった吐息に乗せるようにして拙い口調で「どうした?」と尋ねてくる。 「うん・・・いや、そういえば…ないなって思って」 言いながら、ちゅうと耳元にやった唇で吸いつけば燐が甘い吐息を吐く。しかし目は頼りなげだ。 「ど、すんだよ・・・」 そう言った雪男の目がふとあるものにとまる。躊躇なくそれに手を伸ばしたところで燐の悲鳴混じりのストップがかかった。 「ちょ、まてまてまて!それ、使うのか!?」 雪男が手にしていたのは、今日の添え物だった茹でたブロッコリーにかけるのに出していたマヨネーズだった。何故いけないのかわからないと言わんばかりの雪男の表情に、燐は必死になって嫌だと首を振った。 「つか・・・お前、マヨネーズってそれ、お酢とか入ってんだぞ!?」 料理をしない雪男にとってマヨネーズはあくまでマヨネーズで、それが何でできているのか今まで頓着したことなどなかったが、言われてみれば確かにそうかもしれない。でも。 「酢が入ってるとダメなの?」 他意なく聞いたつもりが、燐からは真っ赤な顔で「ないわボケ!」とどっかで聞いたような口調で一喝され、さすがの雪男もかちんとくる。無言で赤いふたを捻って外すと、燐が腕の中でもがきだした。当然、それは押さえ込みにかかる。 「逃げるなよ。何事もやってみなきゃわからないだろ」 燐のとっさに一言に、雪男がぴたりと動きを止める。 「それはいやだな」 一転大人しくマヨネーズのふたを閉めて元の場所に戻す雪男に、燐の顔がひきつる。それをなだめるように頬に口づけてやって、雪男はさて、とまた視線を巡らせる。雪男の体の下に収まったまま、おっかなびっくり燐はその視線を追うから、雪男は心の中で苦笑をこぼした。 「ぅ・・・く、は・・・ぅ」 まずは中指。少しの抵抗をともなって、奥まで埋めきる。やんわりと動かしてやれば、びくりと燐の腰が戦慄いた。 「ぅ、っん・・・は・・・ゆき、お・・・」 燐の手が雪男の背中のシャツをきゅうと握る。切なげに歪む燐の表情を見下ろしながら、次第に動かす手は激しくなる。いつもの水分のある薬とは違って、動かす度にぬちぬちと音がする。内壁も指に絡みついてくるようだった。それを思って雪男の方でもぞくりとしたものが走る。 「・・・もう、大丈夫?」 少々性急だとは思いながらも雪男が尋ねると、燐も少し迷ったそぶりを見せるも頷く。いたずら半分に、燐が好きな場所をいじってやって隠すのも忘れられた高い声を聞いてから、指を引き抜く。 「ぃ・・・ひ、ああああっ!?」 勢いのまま貫かれ、燐は目を閉じるでないし見開いた。その反動が雪男の方にも帰ってくるから、雪男も自然眉根を寄せる結果になる。兄の顔の脇に片肘をつけば結合はより深くなって燐はまた高い声を上げる。しかし、それはその時だけで。 「う、ぁ・・・く・・・ぅ・・・っ」 律動を始めてすぐ、燐の様子がおかしいことに雪男は気づいた。雪男の背中に回っていた腕はいつのまにか解かれ、机の上でさまよい立たない爪を立てている。耐えるような声は、雪男の名前を呼ぶのもやめてしまった。 「ど、したの・・・?痛い・・・?」 ふるふると左右に振られる首。一度は律動を止めて雪男が燐の顔をのぞき込むと、燐は何か言いたげな顔で雪男を見た後、ふいとその顔を逸らしてしまった。 「食べ物、で・・・こういうことするの・・・イヤだ・・・」 ・・・今更? 「だって、お前・・・っ・・・止めるまもなく手出してきたのお前だろ!俺イヤだって言ったのに!」 燐が吠える。下肢をさらした格好じゃすごんで見たところでたかが知れているが、燐は必死だった。 「でもちょっとわからないんだけど・・・」 責めるわけではない、単純な疑問を口にしたといった顔でいう雪男に、燐の表情がみるみる変わっていく。驚きから、憤慨へ。 「お前・・・!いつも俺の料理そう思って食ってんのか・・・」 言い切った燐と対照的に、未だ雪男が要領を得ない表情をしているのに、燐は愕然とする。そこであることに思い至って、はっと鼻を鳴らした。 「お前、料理しないもんな。だからわかんねーんだよ。ってことでもう今日はやらねーから!さっさとそれ抜けよ」 「ちょ、雪男・・・っお前、なにやっ――んァっ!!」 「・・・ヒ、ィあ!あッ」 からかうように言われて、燐の太股がしっかりと雪男の腰を挟み込んでいることに気づく。が、この不安定な体勢で力を抜けばどういうことになるか、いかな燐でも想像に難くない。しかし問題はそれだけに留まらなかった。 「・・・ぅあ・・・あ、あ・・・やぁ!は、ぃや・・・いやだ、これ・・・あ、やだ…ふざけ…んな、雪男ぉ・・・っ」 雪男は少しも動いていない。なのにこれはどうしたことか。力を入れざるを得ない体勢で、しかし少しでも力を入れようものなら、深々と自分を貫く雪男を締め付けてしまい、それが自分のいわゆる性感帯を刺激して、勝手に腰が跳ねる。それがまたナカを擦られることになって快感を呼ぶといった、ともすればループに陥ってしまいそうな感覚に、燐ができることと言ったらできるだけ動かないように身を堅くして耐えるだけだ。 「んぁッ!!」 とっさに燐がテーブルの縁を掴み直したのと雪男がしっかり燐の腰を支えたことで落ちるまでには至らなかった。 「は・・・さすがに、キツいな・・・」 見れば燐の前をおざなりに隠していたエプロンに染みができているのを指摘されて、燐の顔にカァッと朱が走る。 「も、なんだよ・・・ぉっ、俺まちがったこと・・・いって、ね・・・のに・・・ぃ」 ゆっくりと雪男が顔を上げる。その表情に、燐はハッとして、それから悔しげに顔を歪めた。 「その、カオ・・・っ反則だ・・・」 怒れなくなるだろ、と燐が叫ぶように言って、雪男は表情を僅かに和らげた。 「…強いて言うなら、兄さんが僕の気持ちをわかっていなかったからかな。気持ちって言うより・・・やっかいさ、って言った方が正しいかもしれないけど」 ぐ、と燐の腰が持ち上げられて、再びテーブルに戻される。燐がほっと息を吐く間もなく、覆い被さるようにして抱きしめられる。強く。 「・・・覚えといて。僕は妬くのが人間相手だなんて限らない。本当は台所で背中向けて立ってるのを見るのだけでも、面白くないんだよ。それをあんな風に言われたら・・・わかるだろ、僕の気持ちぐらい」 ぎゅう、と回る腕の強さが増す。料理している間は、燐は雪男が手を出すことはおろか、そこに立ち入ることすら許さない。それに疎外感を感じていたということらしい。だが。 「・・・じゃあ、次からさやえんどうのすじ取りくらいは付き合わせてやっから・・・」 腕が少しだけ緩む。それを狙って燐が頭を持ち上げる。雪男の唇に自分のそれを触れ合わせる。そうして視線を持ち上げて、どこか戸惑った風にも見える弟を上目に見る。 「続き・・・しようぜ」 あれだけ好き勝手やっといて今更そんなことを聞いてくるのだ、この弟は。 |