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彼の言い分、彼の言い訳
人間の三大欲求は、睡眠欲食欲そして性欲。
そのうち、食欲と性欲が繋がってるっていうのが自分の双子の弟の弁だ。
なんとなく、それはわかる。わかるのだが、それでも何もこんなところで盛らなくったっていいのに、と唇を噛む。
「・・・何考えてるの?」
「べ、つに・・・っ」
誤魔化しきれてない言葉にくすりと笑う雪男が燐は気に食わない。手をついた机ががたりと鳴った。
二人がいるのは旧寮の食堂だった。住んでいるもの二人なら、ここを利用するのも二人で、広い食堂に整然と並べられたいくつもの机とイスのうち、一番端のテーブルには燐が用意した二人分の食器が乗っている。食事を終えたのでそれらはすでに空だ。そのテーブルを背中に寄りかかるようにして縁に手をついて、燐は雪男の愛撫を受けていた。土曜の夜であったから二人とも私服で、雪男も久しぶりに足を通したジーンズが汚れるのもかまわず、土足で利用する食堂のほこりっぽい床に膝をついている。因みに燐のズボンはすでに雪男によって下ろされていた。煌々とした食堂の明かりの下、上は手を着けないまま下肢を晒しているのに燐は先ほどからずっと顔が真っ赤だ。勿論雪男の衣服には一糸の乱れもない。
「あ、く・・・もぉ・・・も、どってからじゃ、駄目なのかよ・・・っ」
先ほどから何度口にしたかわからない言葉をまた口にして、燐は体をよじった。それを雪男の手がまたぐいと引き戻す。そうして雪男が口を開くと、すでに熱ではりつめた燐のそれをべろりと舐め上げた。ひぅ、と燐が小さく鳴く。
「いいけど、・・・我慢できるの?」
「・・・・・・・・・」
とっさに答えられないのが、言ってしまえば燐の答えだった。しかし雪男だって此処まで高ぶらせた上で漸く聞いてくるから、いわば確信犯の開き直りのようなものだ。だからこそ燐は悔しくてたまらない。
何も言えないまま、しかし悔しさだけは空気に滲ませて自分の前で跪く弟をにらみつけた。そんな燐に、雪男はにっこりと笑いかける。
「エプロンっていいよね」
「…お前ファンの女の子が聞いたらひくぞ…」
呆れた様子にも全く堪えた様子はない。
そんな雪男が、たくし上げている燐の愛用エプロンを軽く持ち上げて示す。ピンク色のそれは燐の誕生日に雪男が贈ったものだ。色身が落ち着いているとはいえ、15の男にピンクはないだろうと受け取ってまずそう思ったが、そこは流石雪男というべきか、身につけてみれば燐によく似合っていて、文句も言えなくなってしまった。前当てを肩でつるタイプのシンプルなデザインだったのもよかったのだろう。しまいには燐も気に入ってしまい、食事の時にも(と言っても外すのを忘れたのが大方の理由だが)身につけていたのが、しかし今回は徒になった。ズボンは速攻下ろしたくせに、雪男はエプロンには頑なに手を着けないから、必要以上の羞恥に苛まされて燐は臍を噛むしかない。
そうこうしているうちに、だ。また雪男の手が燐へと伸びた。エプロンを押さえたままの右手に代わって、左手が器用に燐を追い上げにかかる。双玉の方にまで手が回って、燐は思わず高い声を上げかけて、慌てて片手で口を押さえる。誰もいないとわかっていても、声が響く食堂で遠慮なく声を上げられる神経を燐は持ち合わせていなかった。
「ん・・・っ、く・・・ふ・・・ン、んうっ」
くぐもった声に気づいて、雪男が視線だけ上げて燐を見る。外させようかとも思ったが、何も言わずに視線を戻した。震える両手で口を押さえる真っ赤な顔は、それはそれでなかなかクるものがある。
からかうように先に吸いついてから、エプロンの腰紐に邪魔されながらも燐が着ているTシャツをたくしあげて露わになったへそも尖らせた舌でなめ上げる。ビクビクッと腰がはねた。そこで漸く雪男がひざまづく形から腰をあげると、待ちかまえていたように燐の両腕が雪男の首に回る。何度もキスを繰り返しながら兄の体を持ち上げてやる。
そうしてとん、とおろしてやるのはテーブルの上。
「んっふ・・・ん・・・っ」
「・・・ん・・・」
邪魔になる食器を空いた左手でよけ、しがみついてくる体をゆっくりと押し倒したところで、雪男ははたと気づく。
そう言えばここは食堂で、いつもの寝台ではない。当然、いつもは枕元に隠してある「あれ」がない。
「ゆ、きお・・・?」
動きをとめた雪男に燐も気づいて、あがった吐息に乗せるようにして拙い口調で「どうした?」と尋ねてくる。
「うん・・・いや、そういえば…ないなって思って」
「な、にが・・?」
「慣らすもの?」
言いながら、ちゅうと耳元にやった唇で吸いつけば燐が甘い吐息を吐く。しかし目は頼りなげだ。
「ど、すんだよ・・・」
「まぁ何か代わりにすれば・・・」
そう言った雪男の目がふとあるものにとまる。躊躇なくそれに手を伸ばしたところで燐の悲鳴混じりのストップがかかった。
「ちょ、まてまてまて!それ、使うのか!?」
「? そのつもりだけど?」
雪男が手にしていたのは、今日の添え物だった茹でたブロッコリーにかけるのに出していたマヨネーズだった。何故いけないのかわからないと言わんばかりの雪男の表情に、燐は必死になって嫌だと首を振った。
「つか・・・お前、マヨネーズってそれ、お酢とか入ってんだぞ!?」
「・・・そうなんだ」
料理をしない雪男にとってマヨネーズはあくまでマヨネーズで、それが何でできているのか今まで頓着したことなどなかったが、言われてみれば確かにそうかもしれない。でも。
「酢が入ってるとダメなの?」
「バカ!お前、しみるだろ!」
「へー、しみるんだ・・・って、やってみたことあるの?」
他意なく聞いたつもりが、燐からは真っ赤な顔で「ないわボケ!」とどっかで聞いたような口調で一喝され、さすがの雪男もかちんとくる。無言で赤いふたを捻って外すと、燐が腕の中でもがきだした。当然、それは押さえ込みにかかる。
「逃げるなよ。何事もやってみなきゃわからないだろ」
「何でそんな笑顔!?やってみて痛かったらどうしてくれんだよ!!痛い目みるのは俺なんだぞ!?」
「でも卵も入ってるし、痛くないかもしれないじゃない」
「お前バカ!?っていうかお前もしみるかもしれねぇぞ!?」
燐のとっさに一言に、雪男がぴたりと動きを止める。
「それはいやだな」
「テメェ・・・」
一転大人しくマヨネーズのふたを閉めて元の場所に戻す雪男に、燐の顔がひきつる。それをなだめるように頬に口づけてやって、雪男はさて、とまた視線を巡らせる。雪男の体の下に収まったまま、おっかなびっくり燐はその視線を追うから、雪男は心の中で苦笑をこぼした。
そこまで怖がってるのなら自分を殴るでもして逃げ出せばいいものを。びくびくと全身で緊張しながらも大人しく自分の一手一手に注目している様は、まるで捕まった小動物のようにすら思える。普段の兄からは想像もつかないようなその姿を見たいからやってしまうのだと、言って聞かせたところで、この兄は理解しないだろう。言う気も、雪男にはなかった。
結局、そんなに選択肢もなかったので、米のかわりに食卓に出ていたバケットに使っていたオリーブオイルに落ち着くことになった。
燐の片足にひっかかっていたズボンを床に落として、その間に体を入れた雪男の指が小鉢に残っていたオイルを掬いとる。場所が場所だからか緊張する体を宥めるように顔にキスをおとしてやりながら、押し当てるのは自分にだけ許された場所だ。
「ぅ・・・く、は・・・ぅ」
まずは中指。少しの抵抗をともなって、奥まで埋めきる。やんわりと動かしてやれば、びくりと燐の腰が戦慄いた。
「ぅ、っん・・・は・・・ゆき、お・・・」
燐の手が雪男の背中のシャツをきゅうと握る。切なげに歪む燐の表情を見下ろしながら、次第に動かす手は激しくなる。いつもの水分のある薬とは違って、動かす度にぬちぬちと音がする。内壁も指に絡みついてくるようだった。それを思って雪男の方でもぞくりとしたものが走る。
「・・・もう、大丈夫?」
少々性急だとは思いながらも雪男が尋ねると、燐も少し迷ったそぶりを見せるも頷く。いたずら半分に、燐が好きな場所をいじってやって隠すのも忘れられた高い声を聞いてから、指を引き抜く。
靴を履いたままの足を持ち上げて、胸元につくくらい折り曲げると、燐が少し苦しげに顔をゆがめる。しかし構うことなく熱を押し当てた。
「ぃ・・・ひ、ああああっ!?」
「・・・きつ・・・」
勢いのまま貫かれ、燐は目を閉じるでないし見開いた。その反動が雪男の方にも帰ってくるから、雪男も自然眉根を寄せる結果になる。兄の顔の脇に片肘をつけば結合はより深くなって燐はまた高い声を上げる。しかし、それはその時だけで。
「う、ぁ・・・く・・・ぅ・・・っ」
律動を始めてすぐ、燐の様子がおかしいことに雪男は気づいた。雪男の背中に回っていた腕はいつのまにか解かれ、机の上でさまよい立たない爪を立てている。耐えるような声は、雪男の名前を呼ぶのもやめてしまった。
「ど、したの・・・?痛い・・・?」
「・・・っ」
ふるふると左右に振られる首。一度は律動を止めて雪男が燐の顔をのぞき込むと、燐は何か言いたげな顔で雪男を見た後、ふいとその顔を逸らしてしまった。
驚いたのは雪男だ。今まで見せたことのない様子を見せる燐に、内心焦りを感じるもそれを素直に出す性格をしてもおらず、結局そのまま燐の次の言葉を待つことにする。その辺りの忍耐は雪男の方がずっと強いので、果たして燐は暫く黙した後、漸く口を開いた。
「食べ物、で・・・こういうことするの・・・イヤだ・・・」
・・・今更?
それが雪男の頭に最初に浮かんだ言葉だ。それをそのまま口に乗せると燐は燐で憤慨した様子でまくしたてる。
「だって、お前・・・っ・・・止めるまもなく手出してきたのお前だろ!俺イヤだって言ったのに!」
「イヤだって言ったっけ?」
「言った!」
燐が吠える。下肢をさらした格好じゃすごんで見たところでたかが知れているが、燐は必死だった。
「お前、一度暴走始めると俺の話少しもききゃしねーんだもんな・・・」
拗ねた様子で言う燐に、雪男としては納得しかねる所は多分にあるものの、燐の先ほどからの様子で思い当たる節はあるにはあった。中々溶けない体の強ばりは、そこから来ていたのか。だったらもっと早く言えよ、と喉元まで出かかった言葉は飲み込んで、代わりに大きなため息を吐く。
「でもちょっとわからないんだけど・・・」
「何だよ?」
「何で食べ物じゃダメなの?たとえばベッド以外が嫌だ、とかならまだわかるけど」
責めるわけではない、単純な疑問を口にしたといった顔でいう雪男に、燐の表情がみるみる変わっていく。驚きから、憤慨へ。
「お前・・・!いつも俺の料理そう思って食ってんのか・・・」
「は?」
「食べ物は大事なんだぞ!食うものなかったら人は死んじまうし、おいしい料理食ったら幸せになるだろ!」
「うん。まあ、そうだね」
「それをお前・・・こんなことに使って・・・しかも何で悪いかわからないとか・・・罰当たり!ジジイに叱られちまえ!」
「・・・・・・」
言い切った燐と対照的に、未だ雪男が要領を得ない表情をしているのに、燐は愕然とする。そこであることに思い至って、はっと鼻を鳴らした。
「お前、料理しないもんな。だからわかんねーんだよ。ってことでもう今日はやらねーから!さっさとそれ抜けよ」
「・・・・・・」
黙り込んだ雪男に対して、燐としては弟を言い負かせた気持ちでいた。そこまでいかずとも、普段決して口では勝てない弟を相手にして、ここまで弁がたっただけでも燐の溜飲は大いに下がることになった。
だから俯いたまま黙りこくってしまった弟にはじめこそどうだと胸を張らんばかりにしていた燐だったが、いつまでも沈黙している雪男に少しずつ心配になってきて、雪男の表情をのぞき込もうと首を捻った。その瞬間、ぐい、と燐の腰が強く引かれた。
「ぅあ!?」
テーブルからずり落ちそうになって反射的にその縁に手を付いたものの、燐の背中は既に半分ほどしかテーブルに乗っていない。落ちる、と本能的に恐怖して腹筋から背筋から力が入ると、未だ中にいる雪男を強く締め付けてしまい、それが結果として中の弟の存在を燐に強く意識させて、燐は意識の外で悲鳴混じりの声を上げた。
「ちょ、雪男・・・っお前、なにやっ――んァっ!!」
「何って・・・抜こうとしたんだけど?」
嘘吐け。じゃあがっしりと自分の腰を掴んだままのその手は何だ。燐は思うも、また軽く腰を揺すられ言葉は消える。
「・・・ヒ、ィあ!あッ」
「ほら、兄さん。足ゆるめてもらえないと。抜けないだろ」
からかうように言われて、燐の太股がしっかりと雪男の腰を挟み込んでいることに気づく。が、この不安定な体勢で力を抜けばどういうことになるか、いかな燐でも想像に難くない。しかし問題はそれだけに留まらなかった。
「・・・ぅあ・・・あ、あ・・・やぁ!は、ぃや・・・いやだ、これ・・・あ、やだ…ふざけ…んな、雪男ぉ・・・っ」
雪男は少しも動いていない。なのにこれはどうしたことか。力を入れざるを得ない体勢で、しかし少しでも力を入れようものなら、深々と自分を貫く雪男を締め付けてしまい、それが自分のいわゆる性感帯を刺激して、勝手に腰が跳ねる。それがまたナカを擦られることになって快感を呼ぶといった、ともすればループに陥ってしまいそうな感覚に、燐ができることと言ったらできるだけ動かないように身を堅くして耐えるだけだ。
呼吸がどんどん浅くなっていく。全身が緊張する。掌からは早くも汗が滲みだしてきて、ついにずるりと滑った。
「んぁッ!!」
「っく、・・・っ」
とっさに燐がテーブルの縁を掴み直したのと雪男がしっかり燐の腰を支えたことで落ちるまでには至らなかった。
しかし、燐が雪男を強く締め付けることは避けられず、それは雪男の方も強い快感を与えて奥歯を噛んでやり過ごす。
「は・・・さすがに、キツいな・・・」
「ぁっあっ、あ・・・雪男・・・ぉ」
「何、兄さん。今ので少し出しちゃったの?」
見れば燐の前をおざなりに隠していたエプロンに染みができているのを指摘されて、燐の顔にカァッと朱が走る。
「も、なんだよ・・・ぉっ、俺まちがったこと・・・いって、ね・・・のに・・・ぃ」
「確かに兄さんはまちがったこと言ってないよ」
「じゃあ・・・なんで・・・っ」
「なんで?」
ゆっくりと雪男が顔を上げる。その表情に、燐はハッとして、それから悔しげに顔を歪めた。
「その、カオ・・・っ反則だ・・・」
怒れなくなるだろ、と燐が叫ぶように言って、雪男は表情を僅かに和らげた。
「…強いて言うなら、兄さんが僕の気持ちをわかっていなかったからかな。気持ちって言うより・・・やっかいさ、って言った方が正しいかもしれないけど」
ぐ、と燐の腰が持ち上げられて、再びテーブルに戻される。燐がほっと息を吐く間もなく、覆い被さるようにして抱きしめられる。強く。
「・・・覚えといて。僕は妬くのが人間相手だなんて限らない。本当は台所で背中向けて立ってるのを見るのだけでも、面白くないんだよ。それをあんな風に言われたら・・・わかるだろ、僕の気持ちぐらい」
ぎゅう、と回る腕の強さが増す。料理している間は、燐は雪男が手を出すことはおろか、そこに立ち入ることすら許さない。それに疎外感を感じていたということらしい。だが。
「なんだよ、それ…」
燐にはわからない。雪男の方こそ、燐の知らない世界をたくさん持っているではないか。言ってしまえば燐が祓魔塾に入るまでの長い年月、雪男はずっと燐に何も知らせずに、いくつも大事なことを決めてきた。
しかし一方でそれが雪男のエゴと言いきるには自分は未だ無力だし、更に言えば弟がその「狭間」に苦しんでいることくらいは燐も知っていたから、ただ抱きしめられたまま気まずげに視線を泳がせるだけにして止めた。
そうして吐くのは呆れというには熱のこもりすぎたため息だ。
「・・・じゃあ、次からさやえんどうのすじ取りくらいは付き合わせてやっから・・・」
「・・・それも少し違うんだけど・・・兄さん?」
腕が少しだけ緩む。それを狙って燐が頭を持ち上げる。雪男の唇に自分のそれを触れ合わせる。そうして視線を持ち上げて、どこか戸惑った風にも見える弟を上目に見る。
「続き・・・しようぜ」
「いいの?」
あれだけ好き勝手やっといて今更そんなことを聞いてくるのだ、この弟は。
かといって言葉でこんな目に遭うのはまっぴらだった燐はそっと伸び上がって、弟の唇をちろりと嘗めあげて。
ぎゅう、と。強く抱きしめ返すことで、答えにしてやった。
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1万ヒットのキリ番リクエストで頂いたお題で書きました。あちょも様リクエストありがとうございました!
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