0と3の災難



 
 なんや、奥村君これ見たことあらへんの?男子の嗜みですよ。
 よかったらあげるから、使うた時は報告よろしく。


 「・・・というわけです」
 「ふーん」

 いつもの寮の部屋。俺が簡単に事の次第を説明すると、寝台に腰掛けて脚を組む雪男はそれはもう、面白くないと言った顔で相づちをうった。
 対する俺はそんな雪男の正面で正座している。慣れないことをしているせいで、この説教体勢をとり始めてまだ五分と経っていないにも関わらず素足の脚は早くも悲鳴を上げている。
 どうしてこうなったのか。ことの顛末は少し前にさかのぼる。

 相変わらず授業に遅れがちな俺は塾の後、少しの居残りをして京都組と勉強をするようになっていた。といっても殆どはその日の塾の授業内容でわからなかったところや、これから提出する課題について俺が一方的に勝呂に質問をして、子猫丸や志摩がそのわきで眺めながら時折雑談混じりの口を挟んでくるようなものだったけど。
 珍しく今日は質問を終えてもぐだぐだ雑談をしていて、ふと、そういう話になった。即ち、男子校生がする「女子との話」。
 俺は中学では友人らしい友人もいなかったからこういうのはとにかく新鮮で、楽しい。だからこの時も、まぁ子猫丸や勝呂はたしなめる方だったから俺と志摩で盛り上がる感じになって。した話題が、コンドームの話だ。

 「俺、持ってますよ」

 そういった志摩が鞄をさぐって出てきたキャラクターポーチから取り出してみせるのに俺は歓声をあげた。

 「なに、奥村君見るの初めて?」
 「おう」

 素直に頷くと、隣で勝呂が変な顔をした。志摩は可愛らしいなーと笑ってその笛ラムネみたいに繋がってる袋の一つをびりっと切り取って手渡してくる。

 「一個あげます。今時男子の嗜みですよって。付け方もわからんかったら女の子に笑われてまうよ」

 そう言ってウインクする志摩が俺からしたら大人に見えて、格好いい。その横で勝呂は鼻を鳴らした。

 「相手もおらんくせに何でンなモン持ってんだか」
 「あ、坊も一つどうです?」
 「いらんわ、アホ!」

 そう言った勝呂(でも少し気になっているみたいだった)が席をたったので、それはそこでお開きになった。
 さて寮に戻ってきた俺はというと、志摩の言葉がぐるぐる頭に残って、とりあえず部屋着にだけ着替えると貰ったコンドームをぼんやり眺めていた。そこで今日も先生をやってきた雪男が帰宅して、ただいまも言わないその口でそれ何と聞いてきた。
 その時の俺の浅はかさを、無駄だと思っても今、呪わずにいれない。俺はその時、聞いてきたことで雪男も見たことなかったんだと思いこみ、志摩のさっきの台詞を拝借して男子の嗜みを語ってやった。するとみるみるその眉間に皺が寄って、仕舞には俺を床に正座させ、自分は上着だけ脱ぐとネクタイも取らずに寝台で脚を組んだ。
 そして今に至るわけだけど−−。

 「な、なあ腹へらねぇの?夕飯は・・・」
 「後でいい」

 おずおずと俺が切り出してもぴしゃりとはねつけられてしまう。俺は正直どうして雪男がここまで怒っているのかわからず首を傾げるばかりだ。ちらりと目を上げて弟を盗み見ると、腕を組んだ雪男が睨み返してきてあわてて視線を床に戻す。
 なんだ?からかい半分で言ったのが気に食わなかったのだろうか。

 「お前の分も貰ってきてやればよかった?」
 「いらねぇよ」

 即座に返ってきた乱暴な口調に、俺の尻尾が肩と一緒に跳ね上がる。もう何も言えなくなってしまった俺に、雪男は深くため息を吐いた。

 「っていうか僕も持ってるしね」
 「うそ!?何で!?」
 「何でって、兄さんとする為に決まってるだろ」
 「あ・・・そうですか」

 さらりと言われて、俺は小さくなるしかない。と、ふと気づいて顔を跳ね上げる。

 「でも使ったことねぇじゃねぇか!」
 「つける前に兄さんがいれろいれろ煩いじゃない」
 「な・・・!んなこと言ってねぇ!!」
 「あれ?そうだっけ?」

 意地悪く口端を歪めて雪男が言う。不覚にも俺がその表情に二の句が継げずにいると、雪男が先ほどまでの怒りを少し和らげて「どうして怒ってるかわかってないだろ?」と、聞いてきた。少し躊躇った後俺が素直に頷くと、雪男はまた小さなため息を吐く。そうして俺から取り上げた5センチ四方の袋を手で弄びながら

 「他の人からこういうの貰ってきて・・・僕がどう思うかとか考えないのかな・・・」

 と、独り言のように言った。軽く伏せた横目でコンドームを眺める雪男の表情が何か言いたげで、俺は思わずだって、と口を開いた。

 「付け方知らねぇと、女の子の前で恥かくっていわれて・・・」
 「それもまた・・・まあいいや。それより兄さん付け方知らないの?」
 「・・・・・・見るのも初めてだったのに・・・しるわけねぇだろ」

 弟が息を飲む音がして、俺はいよいよいたたまれなくなってしまう。悪かったな、こんな兄貴で。
 考えてみれば散々だ。俺は高校生にはよくあるちょっとえっちな話をして帰ってきただけなのに、よくわからねぇけど雪男は怒って説教体勢とらされるし、その上兄貴の威厳まで傷つけられた。少し泣きたくなってきたところで不意に雪男が「教えてあげようか」と言うから、俺は顔を上げた。

 「え?お前知ってんの?」
 「そりゃね。知らない兄さんに逆にびっくりだよ。疎い鈍いと思ってたけどここまでとはね」
 「うるせーな!」

 まだ怒りは収まってはいないらしい。血を流す俺の自尊心をしつこくちくちく刺してきて俺はそう返すけど、一方でその提案に興味が向いてしまうのを止められない。
 きっと雪男はそれすらお見通しなんだろう。

 「・・・で、どうする?兄さんが、女の子の前で?そんな恥をかくのは弟として僕も恥ずかしいし」
 「・・・・・・」

 言葉のわりには乱暴な口調で雪男が言うのに、心がざわりとした。まるで尻尾の毛を逆に刷り上げられたときのような不快な感じ。
 いや、でも今はそれよりもこっちのことだ。どうしようと少し悩んで、結局頷くことにした。弟は何でも教えるのがうまいから、きっとちゃんと覚えることができるだろう。兄としての威厳云々はちょっと蓋をすることにする。
 頷くのを見た雪男が、にっこりと満足そうに笑って、俺はすでに少し不安を感じ始めていた。そしてそれは次の言葉で完全な後悔に変わる。

 「は?」
 「だから出してって言ったんだよ」
 「な・・・何を?」
 「言わせたいの?」

 雪男が少し眉間に皺を寄せて、俺は思わずすみませんと謝ってしまった。何も悪くないのに。

 「出すもの出さないとつけられないだろ」
 「・・・でも・・・」
 「別に兄さんのなんか今更見慣れてるし」

 そりゃな。セックスん時あれだけ我がもの顔でいじくり回してりゃあな。
 でもその時と今じゃ話は違う。部屋の電気は煌々とついているし、あいつはベッドに腰掛けてネクタイすら解いてないし、俺は床の上で情けなく正座している。
 あの時の雰囲気から遠くかけ離れている今の状況で、はいそうですかと下肢を出すことなんてできるわけがない。あの時だって脱ぐのには壁のような羞恥心を乗り越えてるっていうのに!

 「できないんなら手伝ってあげようか?」
 「い、いい!」

 くすりと笑われて思わず叫ぶように返してしまった。と、頭よりずっと高いところにある雪男の目が細くなるから泣きたくなる。とっさに断ったことを少し後悔した。
 時間にしたらそうでもないんだろうけど、人生で十指に入る程の葛藤をようよう乗り越えて、俺は正座から少し腰を浮かせると煌々とした蛍光灯の真下でゴムのスウェットパンツに手をかけた。一度弟を見上げれば早くと視線で促されてしまって、いよいよ逃げ場がなくなる。

 「兄さん」
 「・・・わあってるよ!」

 あとはもう殆ど勢いだった。もともと尻尾の邪魔にならないように浅く履いていたズボンを下着ごとずりおろす。ハーフパンツよりやや短いパンツが膝立ちになってる膝まですとんと落ちる。そこから脚を抜く気には当然なれなくて、そのままぺたりと腰を正座の脚に戻した。脚をぎゅっと閉じるが、感じる。見られてる。俺はとてもじゃないが顔を上げることができないってのに。その時突然「はい、じゃあ準備して」と言われて、俺はきょとんとした。
 準備?下を脱いだからもう準備はできてるんじゃないのか。それとも何か他に特別に用意するものがあんのか?
 疑問符を浮かべている俺に気づいたのか、雪男は呆れたようにため息を吐く。

 「勃ってないまま、どうやってつけるっていうの」
 「は?たつ・・・?」
 「だからオナニーして、それ大きくしてって言ってるんだよ」

 それ、と言われておもわず俺の気持ちと一緒に小さく縮こまってる息子を見る。と、遅れて弟の言葉の恐ろしさに気づいて驚愕の声を上げた。
 青くなって雪男を見るが、弟はにっこり笑い返すだけだ。

 「ほら、早く。教えて欲しいんでしょ?」
 「・・・って言ったって・・・」

 俺は弱りきって眉尻を下げるしかない。せめて向こう向いててくれと言ってもすげなく却下された。

 「授業料って言ったらいいかな」
 「?」
 「見たい。見せて。そのかわり、ちゃんと教えてあげるから」

 ね?と小首を傾げる弟は、こんな時なのに、いやこんな時だからこそいい笑顔だ。畜生、と俺は今日何回目になるかわからない後悔をまた重ねながら、おずおずと自分のそれに手を伸ばす。右手で少しいじってみても柔い感触を伝えるばかりで、その気配は全くない。当たり前だ。意識せずとも弟の痛いくらいの視線を体中で感じて集中できるわけがなかった。肌が粟立つ心地すらする。俺は耐えきれなくなって真っ赤な顔をせめて隠そうと俯いたまま頭を軽く振って顔の前に前髪を落とすが、隠し切れてる自信はなかった。
 震える手の動きが鈍くなってとうとう止まってしまってから、俺は無理、と小さく呟く。それを聞いたのか、雪男が口を開いた。

 「夜いつも何考えてやってるの?」
 「・・・へ?」

 俺は半べその顔をあげる。それに雪男はにっこりと笑いかけてきた。どうでもいいけど、こいつさっきからずっと笑顔だな。そんなにこの状況が面白いのか。
 内心唸りつつ、それでも言い方にふと引っかかるものを感じて首をひねる。弟は軽く目を眇めて「知ってるよ」と恐ろしいことを口にした。

 「夜、ベットで。時々一人でしてるよね」
 「な・・・っ!?」

 そうなのだ。悪魔の体のせいなのか、俺はこの体になってから、何故か性欲が抑えきれない時があった。大半はクロと暴れて忘れることにしているが、どうしようもない夜も確かにあって、こうして雪男とするようになっても一人で処理した日もまれにあった。それだって忙しいコイツを毎回つき合わせるのも悪いと思ってしたことだったのに、まさか知ってたなんて!

 「みみみ見てたのか!?」
 「見てないよ。そういう時、簾おろしてるだろ。普段おろさないくせに」

 わかりやすいよね、とまで言われて俺は絶句した。

 「まぁだから今回見せてっていったようなものだけど」
 「へ、変態!」
 「兄さんに言われたくないな」

 不本意といった顔をされて、こっちが泣きたくなる。人の気も知らないで、本当に勝手なことを言う弟だ。

 「お前、もう本当・・・」
 「何?」
 「何でもねぇよっ」
 「ああでも、確かに見てないけど、時々僕の名前・・・呼んでるよね」
 「〜〜っ!!」

 したり顔で言う弟を、俺は頭の中で殴りとばしていた。しかし実際はその場から動けず、あんぐりと口を開けたまま真っ赤な顔でわなわな震えるだけだ。そして心に誓う。次からはどんなに気持ちよさそうな顔で寝てたとしてもたたき起こしてつき合わせてやる。・・・きっと、コイツの寝起きの怖さを思ってできないんだろうけど。

 「まあ、それはいいから。・・・実際何を考えてやってるの?まあ僕とのことだろうけど」
 「滅んじまえ!」
 「ほら、思い出して。その時の僕は、どんな風に触ってる?」

 不意に雪男が表情を変えてきた。目を細めて俺を見下ろす。それは丸っきり「あの時」の顔で、俺はぴくりと肩をふるわせる。尻尾の付け根あたりからぞくりとしたものが背筋を駆けて、頭の奥がびりっと痺れる。震える手を持っていくとあれだけうんともすんとも言わなかったそれが早くも反応を見せ始めていた。それに右手の人差し指と親指を回して握り込んで動かし始める。床の上で大人しくしていた尻尾の先が、跳ねた。

 「・・・そんな乱暴にしてるかな」
 「して、るじゃ・・・ねぇかっ」

 俺が一番わかってるんだっつの。コイツは本当に容赦がない。裏筋を緩くなぞったと思ったら弱い先端をこれでもかってイジられて、俺は声を上げてしまう。

 「あ、く・・・ぅ」

 は、と熱い吐息が漏れる。少しだけ足を広げて、カリの部分に親指を置くとそのまま緩くしごき始める。雪男の視線がさらに絡むのを感じた。

 「見られてるのに、しちゃうんだ・・・」
 「・・・うるせ・・・っ」

 しろって言ったのは雪男だろ。
 だけど今は正直そんなこと言う余裕はなかった。早くも先走りがこぼれてきて、しごく度ぐちゅぐちゅ音がする。一人でしている時は、こんなにならないのに。
 ちらりと視線をあげれば、弟の姿。俺とは対照的にきっちり制服を着込んでいて、数時間前には俺や勝呂やしえみ達の前で教師やってたっていうのに。何やってんだろう、俺たち。だけど手は止まらない。
 意地の悪い眼差しの中に真剣な、そして隠しきれない興奮がかげる。それに見つめられてるんだと思うと、ぎゅうと肺が苦しくなる。やばい――興奮する。

 「兄さん」
 「っ、ぁ・・・は・・・雪男・・・っ」
 「兄さん、顔を上げて」

 言われて、言葉のまま顔を上げる。

 「く・・・っふ、は・・・雪男・・・ぉっ」

 見れば、少し切なげな顔をした雪男と視線があった。何だ、お前だってそんな顔して俺の声聞いてたのかよ。どうしようもない奴。
 だけど、それ以上にどうしようもないのはたぶん俺。

 「…は、っ…ぁ」

 疼く場所に手を伸ばすのは、さすがに躊躇した。だけど我慢できなくて、そのまま濡れた左手をそろりと動かす。奥へ。きっと俺がしてることには気づいてる筈の雪男に何か言われるだろうと思ったけど、意外にも何も言われなかった。ただその喉が僅かに上下するのが見えて、俺はそれだけで肩が震えた。
 つぷ、と指の先が埋まる。びくびくと腰が震えて、だけどいつだって其れ以上はできないから、今日もまたそのまま僅かに動かすだけで、後は右手に集中する。ぐりぐりと鈴口をいじる手は止まらない。
 あと、もう少しでイける。その時だった。

 「もう、いいよ・・・」
 「・・・は、ぇ?」

 言われた言葉がとっさにわからなくて、吐息が変な声になってしまった。弟が手にしていたものをちらつかせて漸くどうして弟の前でこんなことをしていたのかを思い出して俺は頭が沸騰した。
 忘れてた!たてばいいって言われてたのに、こんな夢中になってバカじゃねぇの俺!

 「・・・どうしたの?」
 「るせー・・・」

 凹みに凹みまくってる俺を手招きする雪男に、のろりと色々な意味で重い腰を上げて、促されるまま雪男の足の間に座る。自然に弟に背中を預ける形になった。体温を感じて少し安心する。

 「足、こっちね」
 「あ、ちょ・・・」

 止める前に閉じていた足を弟の腿にかけさせられて、全てが弟の前に大きく晒される。もう吹っ切れたと思ったのに、また羞恥が少し頭をもたげる。

 「じゃあ教えてあげるから。・・・ちゃんと見ててくださいね、奥村君」
 「・・・もー…どこまで変態なんだよ。お前・・・」

 真っ赤になった顔をげんなりと歪める。と、ゴムを渡されて袋を切って中を取り出すように言われたから、ぬめる手で苦労して(最後は歯も使って)どうにか封を切ると中のコンドームを取り出した。なんかぬるぬるしてるし、冷たい。そしてとにかく甘い匂いがする。

 「匂いつきか・・・」

 雪男がいやな顔をするのを後目に、俺はちょっと感動していた。ジジイからちょろまかしたエロ本では見たことあったけど、実際初めてみた生のゴム。ひっくり返して眺めたり匂いをかいだりしていると、雪男に取り上げられてしまう。

 「こっちが表ね」
 「ぃ、つめた・・・っ」

 只でさえ熱を持ったそこにいきなりゴムを当てられて、思わず腰が泳いだ。

 「ほら、ちゃんと見てよ。これが出てる方が上ね。逆にすると降りないから」
 「・・・う」

 何かちょんとでたゴムの先を指でつついて示す雪男に、思わず唸った。もしかしなくても、これは酷すぎる状況じゃないか。
 後ろから抱き抱えられながらM字に大きく足を開かされて、自分の性器に弟の手が絡んでいる様を思いっきり見せつけられて。
 そんな俺を後目に雪男の講義はさらに進んでいく。

 「そしたらこの先を抑えながらちゃんとかぶせて、この丸まってるところをずり下ろしていく。わかる?」
 「・・・っ」

 ああ、だめだ。正直それどころじゃない。弟のかさついた手が器用に動くのはどこか作業的だったにも関わらず、いく寸前まで高められた俺にはそれだってキツかった。輪の形にされた指がもう扱かれているようにしか思えず、俺は泣きたくなる。コイツだって、俺の息が上がってるのに気づいてるのに、手を止めてもくれない。

 「自分でやってみる?」
 「ぁ・・・ぅ、く・・・」
 「余裕なさそうだね。仕方ないな」

 ちっともそう思ってなさそうな声で言うと、俺の手を半分ゴムをかぶったそれへと持っていかせる。

 「手、開いて・・・自分でやってみなよ」

 俺は促されるまま震える手でそれを下ろし始める。雪男のように上手くはいかずもたついていると、俺の手に雪男の手が重なって助けてくれた。

 「因みに毛はさむと滅茶苦茶痛いから」
 「・・・おま、やったことあんの・・・?」
 「・・・・・・やってみる?」

 ちょっと触れられたくないことだったらしい。言われるのに頭をぶんぶん振って丁重にお断りすると雪男が後ろで小さく笑った気配がした。綺麗な長い指が俺の下生えをわけて滑りのよくなったゴムを根本まで下ろしていく。

 「ほら、できた」

 「どんな感じ?」と尋ねられても、結局任せ通しになってしまった恥ずかしさに俺は気疲れしてしまってそれどころじゃない。でも折角教えてくれたのだからと正直に「変な感じ」と答える。

 「なんか少し…締め付けられてる気がする・・・」
 「こんなものだよ」

 こんなものか。ぼんやりした心地で改めて自分の下肢を見下ろして、はぁ、と熱い息を吐いていると不意に大人しかった雪男の手が俺の性器にはっきりと熱を高める意図を持って絡んできた。びく、と俺は肩が跳ねるのを押さえられない。

 「あ、あ・・・っやめ、・・・ゆき・・・!」
 「止めろって・・・じゃあこれどうするの?また自分でする?」

 意地の悪い声に先ほどまでの光景がフラッシュバックして全身の血液が顔に集まっていく心地がする。確かにあれはイヤだ。でも!

 「あっヒ、ぁ・・・や、だ・・・やめろ、って・・・な、んか・・・これ・・・変・・・!」

 そうだ。それこそいつもと同じようにされているはずなのに、いつもだったら頭まで駆け抜ける痺れるようなあの感覚が少し遠い。いっぱいに手を伸ばして爪の先では掠めるけど掴むまでには至らない熱は下腹にどんどん淀み溜まって、なんて言うんだろう、こういうの――

 「・・・もどかしい?」

 そう、それだ。雪男の言葉にこくこくと頷く。ぎりぎりまで高められた今はそれがとても辛いのだと、とりあえず今は止めてくれと振り返って目で訴えた瞬間、どう思ったのか口づけが降りてくる。

 「んっ、く・・・ふぁ・・・んぅっ」

 くちゅくちゅと差し入れられた舌で咥内を優しく愛撫されて自然尻尾がゆらぐ。それだけだったらとても気持ちがいいのにな。弟は俺の気持ちなんてガン無視で、俺の下肢に指を絡めて容赦なく追い上げにかかってくる。

 「ふぁ、ーーっあ!アッあっあっく、や・・・むり、だって・・・ぇっ」

 たまらず口づけを解いて悲鳴を上げる。不安定な体勢のままでは捕まるところもないから、もどかしさにたまらず後頭部を弟の肩口に押し当ててぐりぐりと押しつけてしまう。涙が出てきて引っかかる声のままイけないと訴えた時、後ろの弟が笑った。

 「イけない?本当に?」
 「ぅあっ」

 ぐり、とぬめるゴムの上から鈴口を抉られて俺はびくりと跳ね上がる。閉じていた目を薄く開くと前に回った弟の腕がまず見えた。片手は俺の下肢に行ってるけど、もう片手は俺の胸あたりをしっかりと抱きしめていて、その強さにこんな時にも関わらずくらりとした。耳元に唇が寄せられて、低い声が吹き込まれる。

 「イけないはずないだろ。この手は誰の手?・・・ちゃんと見て、答えてください。奥村君」

 ああ、畜生。どうしてこんな声出すんだよ。

 「・・・けな・・・」
 「なに?」
 「エロい先生は・・・っ・・・いけないと思います・・・!」

 また背後で笑う気配。だけど今度はそれがとても穏やかで。

 「エロい生徒がいけないと思います」

 この時の顔を、俺が見てやれないのが悔しいと思った。




***





 「・・・兄さん」

 潜めた声で名を呼ばれて、俺は少しトんでいた意識を浮上させる。と、シーツにぐったりと沈んでいた足が抱えあげられて、一度引き抜かれていた弟のそれがまた俺のナカにゆっくりと挿入いってくる。

 「ふぁ、あ・・・」

 コイツも一度俺のナカで吐き出していたから、始められる律動はゆっくりしたものだった。俺は腕を持ち上げて雪男の首に回すと緩く抱きしめ返す。
 結局あの後俺はあっさりイかされてしまって、シーツに体を投げ出されてからはさっきまでのもどかしさが嘘かと思うほど呆気なく何回も吐き出した。
 まだゴムは志摩からもらった奴がかぶったままで、受け止めきれなくなったそれからこぼれてシーツまで垂れてしまっている。
 因みに雪男が俺にする時は、雪男のそれに俺がゴムをつけてやった。意趣返しに恥ずかしい思いをさせてやろうと殊更ゆっくりつけてやったのに、弟は恥ずかしがるどころか、どこか愛しげにも見える眼差しで見つめてくるから俺の方が恥ずかしくなって、よっぽど毛を挟んでやろうかと思った。怖くてできなかったけど。

 「あ、ゆき・・・ぉ」

 ぐ、と俺のイイ所を擦りあげられて俺はびくりと体を震わせる。雪男が頬をすり付けてくるのに応えたところであることを思い出して、あ、と小さく声を上げた。

 「ご、む・・・つかったら・・・ほうこく、する・・・って・・・しまと・・・約束してた・・・」
 「報告するの?」
 「ぁ・・・でき、る・・・かよ・・・っ」

 くすりと雪男が笑った。くたくたになった体にとってはそれも刺激で、俺は僅かに身をよじらせる。

 「・・・僕からしようか?」
 「おまえ・・・も・・・しかして・・・やき、もち・・・してた・・・?」
 「やっと気づいたね」

 眼鏡を外していた雪男が手を伸ばして俺の下肢にかぶっていたものを外す。どろりと中身が全部俺の腹にこぼれて、俺は小さく眉をしかめた。雪男は手のゴムをそのまま無造作にゴミ箱に投げ捨てる。
 と、体を折って軽く口づけると、俺の額に自分の額をこつんとぶつけてきた。

 「兄さんには説教よりこっちの方がきくみたいだね」
 「・・・もうしません」

 体がもたないっつーの。
 俺が白旗を揚げると、雪男は嬉しそうに笑った。




 ――――



 イチゴ味だったそうです。